焼酎とは?
焼酎とは、日本で生まれたアルコール飲料で、蒸留酒の一種です。焼酎は、大きく分けて、サワーやチューハイに合う連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)と風味豊かな単式蒸留焼酎(乙類焼酎)に分かれます。単式蒸留焼酎はさらに原材料ごとにいも焼酎・麦焼酎・米焼酎・黒糖焼酎・泡盛などの分類があります。本格焼酎は別途定められた基準を満たした単式蒸留焼酎のみ名乗ることができる特別な名称となっています。
本格焼酎とは何か、ということを説明する前にまず大元の部分から定義を確認していきたいと思います。それでは、焼酎とは果たしてどんな酒でしょうか。どんな作り方をしても焼酎と読んで良いというわけではなく、まず焼酎と名乗ること自体に基準があります。ここからはそうした基準を法的な解説も含めて説明していきます。
酒について
まず、「酒」と呼ばれるものの定義ですが、これは日本の場合、アルコール度数(全体の容量に対するアルコール含有量の割合)が1%以上のもの(酒税法第2条)と定められています。市販されている清涼飲料水の中にわざわざ「アルコール度数1%未満」と表記して販売されているものがありますが、これは「酒ではない」ということを表明して販売しているということとなります。わざわざ宣言しているのは20歳未満でも購入可能であることを示すためといえます。もちろん本格焼酎もアルコール度数は1%以上あります。
このように定義される「酒」ですが、酒類自体は、その製法などから酒税法上では以下の4種類に大きく分かれ、さらにそれぞれに含まれる酒類が決められています。
- 発泡酒類
- 発酵方法や混和の度合いにかかわらず発泡性を有するもの
- ビール、発泡酒、その他の発泡性酒類
- 醸造酒類
- 原材料を発酵させたもので発泡性ではないもの
- 清酒、果実酒、その他の醸造酒
- 蒸留酒類
- 原材料を発酵させ、蒸留したもので発泡性ではないもの
- 連続式蒸留しようちゆう、単式蒸留しようちゆう、ウイスキー、ブランデー、原料用アルコール、スピリッツ
- 混成酒類
- 酒類と果実・糖類などを混和させたもので発泡性ではないもの
- 合成清酒、みりん、甘味果実酒、リキュール、粉末酒、雑酒
実際には、発泡酒類のうちビールでも発泡酒でもないその他の発泡性酒類に分類されるものはアルコール分10%未満に限られていたり、単純に醸造したり、蒸留するだけではないケースもありますが、大まかに分けるとこのような区分となります。
焼酎について
本格焼酎が内包される「焼酎(酒税法上では「しようちゆう」)」は、上記分類でいうところの蒸留酒となります。それでは、焼酎とウイスキーやウォッカはどこが違うのでしょうか。酒税法をもとにすると以下のようなイメージです。なお、2006年4月(一部5月)施行の酒税法に基づく細かい分類は「蒸留酒に関する酒税法上の定義について」にまとめました。
簡単に焼酎を定義すると以下のようになります。
- 発芽させた穀類又は果実を使用していないこと(ウイスキー類などとの区別)
- しらかばの炭などで濾していないこと(ウオッカとの区別)
- 廃糖蜜・精製糖蜜・甜菜糖蜜を原料に使用している場合には蒸留時のアルコール度数が95度未満ではないこと
- 蒸留時に指定外の物品を添加していないこと(リキュール類との区別)
- アルコール度数が45度(35度の場合もある、詳しくは次節参照)未満であること(原料用アルコールとの区別)
となります。さらに焼酎には「光量規制」という制限事項もあります。この制限事項は本格焼酎のみにとどまるものではなく、焼酎全体に適用される制限事項です。詳細に関しては「本格焼酎の 光量規制 について」をご覧下さい。
甲類焼酎と乙類焼酎
焼酎の定義はお判りいただけたと思います。それでは本格焼酎の説明……といきたいところですが、本格焼酎を説明する前にもう一つ焼酎の大きな分類に関して説明しておきたいと思います。焼酎の瓶には「甲類焼酎」や「乙類焼酎」と書かれています。これが本格焼酎を説明する前に説明しておく必要のある大きな分類なのです。実は2006年4月に酒税法が改定され、現在はこの区分はありません。しかし、古い焼酎などには記されていますので、まず旧酒税法に基づく分類を見てみましょう。
旧酒税法では焼酎は製法によって以下のように区分されていました。(旧酒税法第4条)
- しようちゆう甲類
- 蒸留の方法が連続式蒸留機によるしようちゆう
- しようちゆう乙類
- しようちゆう甲類以外のしようちゆう
旧酒税法第3条では甲類は36度未満、乙類は45度以下と定められていますので、一般的な書物などには
- 甲類焼酎
- アルコール含有物を連続式蒸留機で蒸留したもので36度未満の焼酎
- 乙類焼酎
- アルコール含有物を単式蒸留機で蒸留したもので45度以下の焼酎
とまとめられているのです。
ここで登場している連続式蒸留機とは、アルコール含有物(主に砂糖を取った後の廃糖蜜を発酵させたものが使われます)を何度も蒸留することのできる装置です。連続して蒸留することでもととなるアルコール含有物の持つ香味成分や雑味、不純物が取り除かれ、ほぼ純粋なアルコールを得ることが可能になります。甲類焼酎はこうして得られたアルコールへ水を加えます(このことを「和水する」といいます)。和水することで酒税法に定められたアルコール度数基準を満たしているわけです。
一方、乙類で使用される単式蒸留機は、蒸留を一回のみ行なう装置です。一回だけ蒸留することで原料の持つ香味成分や雑味などがあまり損なわれることなく、抽出されます。そのため、原料となるアルコール含有物が何からできたかによって、その味わいや香り、風味が大きく異なるわけです。
これらの特徴から、甲類は「クリアな」「透明感のある」焼酎と称し、乙類は「味わい深い」「個性豊かな」と称されるのです。
それでは新酒税法ではどうなったのでしょうか。まず、従来「しようちゆう」としてまとめられていた上記2分類がそれぞれ酒税法の表記上は独立しました。さらに「甲乙」という分類が無くなりました。旧酒税法と新酒税法の表記は以下のように対照されます。
旧酒税法 | 新酒税法 |
しようちゆう甲類 | 連続式蒸留しようちゆう(2017年4月1日以降は連続式蒸留焼酎) |
しようちゆう乙類 | 単式蒸留しようちゆう(2017年4月1日以降は単式蒸留焼酎) |
それぞれアルコール度数はいままでと同じように連続式が36度未満、単式が45度以下となっています。
しかし、今回変わったのその名称だけではなく、定義も改めて細かく制定されました。連続式蒸留しようちゆうは2番で説明した5点のみの制約ですが、単式蒸留しようちゆうは2番で説明した5点の制約以外に前提として
「連続式蒸留機以外の蒸留機を使用している」
という制約があります。さらにこれに加えて簡単に説明すると以下のような条件が付いています。なお、詳細な規定は「蒸留酒に関する酒税法上の定義について」を参照して下さい。
- 穀類、芋類を原料や麹に使用している。
- 清酒かす(酒粕)を原料に使用している。
- 政令で定められた砂糖と米麹、水を使用している。
- 上記に該当しない場合は、穀類もしくは芋類と穀類麹もしくは芋類麹が、水を除いた原料の50%以上の重量を占めている。
- これらにも該当しない酒類でアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの。ただし政令で定められた砂糖やその他物品のエキスが2%未満であること。
上の1番目から4番目までは後述の本格焼酎に関する規定がそのまま法律になったと考えて良いでしょう。5番目の規定があることで単式蒸留機で蒸留した酒類はアルコール度数45度以下という規定を守る限り、「単式蒸留焼酎」と名乗ることが出来ます。
さらに2017年4月1日に酒税法が改正され、従来の法的な品目指定はかな書きで「しようちゆう」となっていましたが、これが常用漢字に改められ、法的にも「焼酎」という名称が公のものとなりました。これまでの品目改正と同様に従来の記載方法でも良いことになっているため、かな書きで「しようちゆう」と記載されていても違法ではありません。
なお、市場に出回っている「焼酎」にはこれらのほかに「混和焼酎」と呼ばれる焼酎があります。混和焼酎の詳細については「混和焼酎と本格焼酎」でご確認下さい。
甲類と乙類の税法上の違いを解説しましたので、ここで焼酎の税率に関する歴史をご紹介しておきます。
同じような蒸留酒でありながら、甲類と乙類がわざわざ分けられていた理由ですが、焼酎乙類が元々労働者階層で呑まれていたこともあり、乙類側の酒税を低く抑えるためだとされています。
しかし、世界貿易機構(WTO)において、欧米から「同じ蒸留酒である焼酎の税率がウイスキーなどと比較して低く抑えられているのは輸入障壁である」という訴えがなされ、最終的に1997年から2000年に掛けて、段階的にウイスキーなどの輸入蒸留酒の税率を下げつつ、焼酎の税率を上げることで「税額の公平化」を図ることになりました。
税率の公平化が完全に実行された2000年当時、焼酎業界、とりわけ本格焼酎・泡盛業界では税率の上昇に伴う売れ行き不振を懸念する声が多く聴かれました。
一方で、某大手メーカーを中心とするウイスキーメーカーは大手広告代理店と組んで税率の下落を機に猛攻勢に出ました。割安なウイスキーが各種登場したのもこのころの話です。実際、1997年には14万7038キロリットルであったウイスキー類の酒税課税事績は1998年に15万6742キロリットルに増加しています。
ところが、世の中とは皮肉なものです。ウイスキー類の酒税課税事績がピークだったのは1998年で、それ以降はじりじりと下がり続け、2002年には12万0581キロリットル、2004年には10万キロリットルの大台割れ、2005年の酒税課税事績は9万4055キロリットルとピーク時より6万2687キロリットルも減少してしまったのです。
一方、税率が上がる前からじりじりと酒税課税事績を延ばしていた焼酎乙類は、1997年の段階で32万9633キロリットルとなっていました。税額が上がり続けたにもかかわらず、その後もペースは衰えず、本格焼酎ブーム直前の2002年には39万5006キロリットルに達していました。そして、本格焼酎ブームを経た現在は53万9284キロリットルと酒税が上がり始めた1997年と比較して実に20万9651キロリットルもの増加という結果になりました。
ここからは余談となりますが、では、なぜ安くなったウイスキーが下落し、高くなった焼酎が増加したのでしょう。
1997年以前、本格焼酎は労働者の酒というイメージがこびりついてしました。確かに「いいちこ」「二階堂」のブームによって1980年代前半には銀座のクラブなどで本格焼酎が並ぶようになっていたもののそれは本当に一部で、焼酎全体は赤提灯で赤ら顔の親父が工場の帰りに呑む酒、というイメージだったのです。
一方、「ジョニ黒」などに代表されるウイスキー類は税額が高かったことから「舶来信仰」と結びつき、高級酒という扱いを受けていたのです。今では信じられないと思いますが、海外旅行で買ってくるおみやげの定番はウイスキー類だったのです。そして、それが大変に珍重され、豪華な食器棚の中央に海外で買ってきた「ジョニ黒」が神様のように鎮座していたのでした。
ところが、税率が下がり、ウイスキーの高級感が無くなったことでウイスキーは「ハレの酒」から「日常酒」へと格下げされました。さらにそうした傾向に追い打ちを掛けるように大手メーカーが格安ウイスキーの大攻勢に出たのです。一方で焼酎、特に本格焼酎はある程度の高級志向を模索し始めました。日常酒としてのポジションは維持したままで仕込みへのこだわりや原材料の厳選化などを経て、ちょっとおしゃれなお酒という地位を目指したのです。日常酒となるのは度数が高く、値段も余り安くないウイスキーは中途半端な立場となり、逆にウイスキーほどは度数が高くなく、高級感があるのに値段がウイスキーよりも安い本格焼酎は「日常酒」としても「ハレの酒」としても呑めて重宝がられることになりました。
そして、本格焼酎のブームが到来、「ハレの酒」はウイスキーから本格焼酎へと変化してしまったのです。
本格焼酎とは
前述の通り、本格焼酎は酒税法上の分類ではかつての乙類、現在の単式蒸留しようちゆうに当たります。従来、酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律施行規則第11条の5の規定によって、乙類(単式蒸留しようちゆう)であれば本格焼酎と名乗ることが許されていました。しかし、2002年11月1日に従来の乙類焼酎=本格焼酎から一歩踏み込んだ規定が定められました。前提条件である「乙類(単式蒸留しようちゆう)であること」というのは変更ありません。簡単にまとめると
- 穀類、芋類を原料や麹に使用している。
- 清酒かす(酒粕)を原料に使用している。
- 政令で定められた砂糖と米麹、水を使用している。
- 上記に該当しない場合は、穀類もしくは芋類と穀類麹もしくは芋類麹が、水を除いた原料の50%以上の重量を占めている。
という基準となります。なお、「泡盛」の表記については従来より以下のように定められています。
- 黒麹を用いた米麹と水のみを使用している。
となります。この条件を満たすことではじめて「本格焼酎」と名乗ることが出来るのです。本格焼酎と付いている焼酎は様々な基準を満たして作られている品質保証の証といっても良いかもしれません。なお、詳細な条文については「本格焼酎に関する法的定義について」をご覧ください。
一言に「焼酎」といっても実は様々な種類の焼酎があります。ここでは、まず焼酎の大カテゴリである連続式と単式の違いについて解説し、そしてさらに小分類となる米焼酎やいも焼酎などの種類について解説しています。
焼酎の種類について
焼酎はまず大きく分けて連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)と単式蒸留焼酎(乙類焼酎)に種類が分かれています。連続式蒸留焼酎はさらに細かく分けられた種類は存在していませんが、単式蒸留焼酎はそこからさらに芋や麦などといった原材料を元にした種類が存在しています。
POINT解説!連続式蒸留焼酎と単式蒸留焼酎の違いについて
スーパーなどへ行きますと焼酎のコーナーには単に「焼酎」と書かれたものと「芋焼酎」などと原材料と一緒に書かれたものが並列して存在していると思います。すべてではないですが、概ね、原材料が書かれていない焼酎は連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)で、原材料が書かれているのは単式蒸留焼酎(乙類焼酎と種類分け出来ます。
連続式蒸留焼酎(甲類焼酎)は、複数回蒸留することで雑味をなくしてピュアなアルコールを取り出すタイプの焼酎です。原材料としてはサトウキビのしぼり汁などが利用されますが、複数回蒸留しているため、原材料の特性はほとんど感じることができません。一方で、レモン果汁と割ったり、梅干しを入れて味付けをしたり飲む人が好きな味わいに調整してアルコールを楽しめるのが連続式蒸留焼酎の最大の特徴です。居酒屋などに行きますと「レモンチューハイ」「グレープフルーツ酎ハイ」などのようなメニューを見かけるかと思いますが、これらはほぼすべて連続式蒸留焼酎をベースにしたアルコールとなります。連続式蒸留焼酎はさらに細かい分類はなく、ホワイトリカーというのは法的に認められた別名称となります。
一方で蒸留は一回だけにとどめ、香味成分や味わいなど含んだアルコールを取り出すタイプの焼酎が単式蒸留焼酎(乙類焼酎)です。香味成分をたっぷりと含んでいるため、原材料の特性を感じることができる半面、個性の強いレモン果汁などで味を調整すると個性がぶつかってしまって、味わいがあまり良くなくなってしまうタイプの焼酎です。単式蒸留焼酎は原材料の個性が強く出るため、原材料を前面に打ち出した「芋焼酎」などと分類がさらに追加されます。ここでいう原材料とは、一次仕込みで使う麹の種類ではなく、二次仕込みの際に使用した材料をさします。一次仕込みで米麹を使っても麦麹を使ってもいも麹を使っても二次仕込みでサツマイモを掛ければいも焼酎、米を掛ければ米焼酎、麦を掛ければ麦焼酎となります。なお、単式蒸留焼酎のうち、一定基準を満たした焼酎については「本格焼酎」と称することが許されています。
一般的な単式蒸留焼酎の種類について
ここからは単式蒸留焼酎の細かい種類についてまとめていきます。一口に焼酎とくくってしまうことが多いわけですが、実際に使用されている原材料として、ぱっと思いつくものはどんなものがありますでしょうか。現在生産されている単式蒸留焼酎の種類は主要なものとして以下のものがあげられます。
この項では原料別に焼酎の種類と特徴を紹介します。
a.いも焼酎はどんな焼酎ですか?
いも焼酎はさつまいもと米麹、あるいはさつまいも麹から作られる焼酎となります。さつまいもはでんぷん質が少なく、麹にしてもアルコールが出来にくいため、一般的に米麹で仕込みます。鹿児島県が一大生産拠点であり、鹿児島で酒と言えばいも焼酎のことを示します。第一次焼酎ブームの際には「すっきり」「さっぱり」という流れだったため、香りが濃厚で味わい深いいも焼酎は「臭い」「くどい」と見られてしまい、注目されませんでした。味わいは甘い舌触りが特徴で、香りは米や麦に比べて際だちます。これは麦や米と異なり、常圧蒸留(用語集参照)で蒸留されることが多いこととさつまいも自体の香りや甘みが米や麦と違って強いことが理由と考えられています。
前述の通り、さつまいものみではアルコールが造りにくいため、第二次世界大戦後の米が不足した時期に闇市で売られていたヤミ酒を除いて、いも焼酎は米麹にさつまいもを掛ける商品のみでした。しかし、1998年に国分酒造協業組合(現.国分酒造株式会社)が、商品としては日本初となるさつまいも100%焼酎を発売して以来、色々な蔵元からさつまいも100%焼酎が発売されるようになりました。
もともといも焼酎は鹿児島県および宮崎県の特産です。干し芋で知られる茨城県と鳴門金時が有名な徳島県で若干生産されていたものの大多数は鹿児島・宮崎でした。焼酎ブームを経た現在では、地元で採れるさつまいもを使用した芋焼酎が全国各地で生産されるようになり、2009酒造年度には麦焼酎の出荷量(麦焼酎は20万8000キロリットル、いも焼酎は21万キロリットル)を上回りました。
2024年には東京・伊豆諸島で生産される焼酎が「東京島酒」として、地理的表示指定されましたが、要件として麦麹を用いた芋焼酎が定められており、日本国内でも他に類をみない製法となっています。もちろん、麦麹であっても芋焼酎であることは間違いありません。
b.麦焼酎はどんな焼酎ですか?
麦焼酎は、焼酎の種類としては、大麦と大麦麹、あるいは米麹から作られるのが一般的な焼酎となります。大分の名産品という印象の強い麦焼酎ですが、元々は長崎県壱岐地方で長らく生産されてきたものであり、数百年の歴史を持ちます。麦焼酎といえば大分というイメージが強くありますが、これはここ30年くらいのイメージであり、歴史的には壱岐焼酎が麦焼酎の元祖となります。味わいや香りは同じ麦から作られるウイスキーに近く、洋酒がお好きな方が焼酎になじむにはもっとも適切といえるでしょう。
従来大都市圏では焼酎といえば麦焼酎というイメージがありました。これは三和酒類の「いいちこ」や二階堂酒造の「二階堂」の知名度によるところが大きく、昭和50~60年代の第一次焼酎ブームの際には二階堂のとっくりやいいちこのボトルをキープしておくのが流行りました。今回の焼酎ブームの素地を作ったのは「いいちこ」や「二階堂」と言っても良いと思われます。
前述しましたとおり、大分県と長崎県壱岐島が生産拠点です。大分では、減圧蒸留(用語集参照)・イオン交換樹脂(用語集参照)という手法で作られることが多く、すっきりとした飲み口の麦焼酎が主流です。また、最近では常圧蒸留(用語集参照)を使用して、個性ある製品を出している蔵も登場しています。一方、壱岐では伝統的な製法(主原料は麦、麹は米麹、常圧蒸留、米麹と麦の配合比率は約1:約2)を守る7軒の蔵が残り、個性を競っています。
c.米焼酎はどんな焼酎ですか?
米焼酎と称される焼酎は米と米麹から作られます。後述する粕取り焼酎は清酒を醸造した酒粕から蒸留されますが、米焼酎は米を精米し、米麹と掛け合わせることで生産される焼酎となります。主な生産地は熊本県人吉市を中心とする球磨盆地で、球磨焼酎として地理的表示指定されています。また、最近では清酒蔵が清酒製造の閑散期に米焼酎の蒸留をすることが増えており、全国各地で米焼酎が生産されるようになっています。香りや味わいは吟醸酒に近く、比較的焼酎初心者でも取っつきやすい焼酎といえます。従来、減圧蒸留(用語集参照)で作られる銘柄が主流でした。しかし、このところの焼酎ブームで米焼酎が本来持っている香りや味わいを見直す動きが大きくなり、それにともなって従来の製法で作られた米焼酎が徐々に増えてきています。
d.黒糖焼酎はどんな焼酎ですか?
黒糖焼酎は黒糖と主に米麹を利用して仕込まれる焼酎となります。実は、黒糖を使用した酒類は通常リキュール類などに該当し、税率が焼酎とは異なる高税率となります。しかし、日本復帰前から奄美諸島で生産され、名物となっていた黒糖焼酎を何とか生かすために
- 必ず麹を使用して仕込むこと
- 大島税務所管内のみの特例とする
という2点の条件で特別に認可されました。そのため、他の焼酎が法律的には日本全国で生産できるのに対して、黒糖焼酎は奄美諸島でしか生産できない特別な名産品となっています。
砂糖に由来している黒糖焼酎は黒糖独特の香りと甘い味わいが特徴です。焼酎ですから当然糖分は一切含まれていません。そのため、女性に人気が高く、注目されています。
e.そば焼酎はどんな焼酎ですか?
1973年に雲海酒造によって初めて開発されたそば焼酎は、麦焼酎とともに第一次焼酎ブームの牽引役となりました。現在では長野や北海道といったそばどころを中心に全国で作られています。そば焼酎は、ほのかにそばの香りが漂い、舌の上にそば独特の甘さが残る焼酎です。そのため、ロックが大変に美味しく「そば焼酎といえばロック」という人も多くいます。ロックだけでなく、おそばを茹でた茹で汁であるそば湯で割ると上質のそばを食べているような心地がします。
蒸留をしているとはいっても、そば焼酎はそば由来の焼酎ですので、そばアレルギーをお持ちの方は飲み方や体調に十分ご注意ください。
f.栗焼酎はどんな焼酎ですか?
現在では全国各地で生産されるようになった栗焼酎は、そば焼酎と並んで歴史の浅い種類に属する焼酎です。栗のホクホクした甘みが特徴の焼酎で、主にロックで飲まれています。米麹や麦麹と掛け合わせることが多く、麹まで栗を使用した焼酎は今のところまだ発売されていません。
もともと栗を使った焼酎は、1975年に宮崎県延岡市の佐藤焼酎製造場が地場産の栗を使った焼酎の製法を確立、1976年から「三代の松」という銘柄で販売を開始したのが発祥です。
その後、1982年には兵庫県丹波市の西山酒造場が地元の特産品である丹波栗を用いた栗焼酎を発売、さらに1985年に高知県高岡郡四万十町の無手無冠が地元の北幡栗を使った「ダバダ火振」を発売します。現在では、栗の産地で製造され、一般的になってきました。
h.泡盛はどんなお酒ですか?
沖縄で作られる伝統の蒸留酒が泡盛です。泡盛という名称から焼酎とはまた違ったお酒だと思われている方も多いのですが、製法も税法上の種類も泡盛は焼酎の一種類と分類出来ます。泡盛は黒麹菌という麹菌を米に付けて作られることが条件となっており、主にタイ米で醸し出されています。また、他の焼酎がまず麹を発酵させ、そこへ原材料を投入して二次発酵を行うのに対して、泡盛は黒麹菌をタイ米に付け、発酵させ、それをそのまま蒸留する一次仕込み・全麹という手法が用いられます。
泡盛の特徴は「古酒」(クースー)にあるといっても良いと思います。最近でこそ、他の焼酎でも長期熟成させた「古酒」(こしゅ)が出回るようになりましたが、もともと長期熟成させるという考え方は泡盛が一番根強くあります。これは何かお祝い事があったり、節目となる出来事があった際に泡盛を甕に入れ、保存しておくという琉球地方の習慣があったためです。第二次世界大戦で沖縄は焦土と化し、琉球王朝時代から延々と受け継がれてきた伝統の古酒もほとんど破壊されてしまいましたが、現在でもこうした習慣は残っており、100年後の子孫にこの伝統と平和を伝えるべく「百年古酒」という運動も行われています。
i.粕取り焼酎はどんな焼酎ですか?
現在日本で販売されている焼酎は多くがもろみを作り、そこからアルコール分を蒸留する「もろみ取り焼酎」です。実は焼酎にはもう一つ清酒などの搾り粕を使用して作る「粕取り焼酎」と呼ばれる焼酎があります。一時期だいぶ少なくなっていましたが、最近の焼酎ブームで徐々に復権しつつある焼酎です。昔ながらの製法で作った大変個性的な正調粕取り焼酎と日本酒と間違えるような香り高い吟醸粕取り焼酎に大きく分類できます。
正調粕取り焼酎とはどんな焼酎ですか?
清酒を作ると搾り粕が残ります。この搾り粕に籾殻を混ぜて、下から他の焼酎と同様に熱風を送り込みます。そうするとアルコール分が抽出されます。このとき、籾殻の焦げたにおいがアルコール分とともに抽出されるため、大変にあくの強い、個性的な癖のある焼酎となります。これを正調粕取り焼酎と呼びます。
吟醸粕取り焼酎とはどんな焼酎ですか?
本来、粕取りとはこのような手法で作られます。しかし、現在では吟醸酒を造る清酒蔵が増加し、それとともに清酒粕をもとにもろみを作り、これを蒸留する場合が増加しています。こうした籾殻を使用せずに清酒粕でもろみを作り蒸留することで日本酒と間違えるような香りの高い粕取り焼酎が増加しています。こうした手法で造られた焼酎を吟醸粕取り焼酎と呼びます。
粕取り焼酎に早苗饗焼酎という別名があるのはなぜですか?
もともと粕取り焼酎は早苗饗(さなぶり)という田植え後のお祭りで愛飲されていた庶民のお酒でした。ここから粕取り焼酎に「早苗響焼酎」という別名がついたのです。特に九州北部では早苗饗においては粕取り焼酎が飲まれており、かつては粕取り焼酎の専業蔵も存在していたほどでした。こうした伝統を復活させようという動きもあり、「九州焼酎探検隊」および「南ん風」というウェブサイトで籾殻を使用した粕取り焼酎に関する調査や研究が行われています。本項の解説は両サイトの記述を参考に記しました。また、実際に籾殻を使用した粕取り焼酎の醸造再開に向けた実験も行われているようです。ただ、焼酎ブームの陰で清酒の生産量が低下し、清酒粕も少なくなってしまっています。この少ない清酒粕を粕漬けなどの分野がねらうため、ますます粕取り焼酎は製造の危機に瀕しています。
j.そのほかの焼酎について
本格焼酎の製造工程について
皆さんが呑んでいる本格焼酎はこのような工程を経て醸し出されています。こちらで紹介している工程はもろみ取りといわれる焼酎造りの一般的な工程となります。特徴ある焼酎を醸し出すために麹に米や麦以外のものを使用していたり、一部を省いたり、逆にさらなる手間をかけているケースもあります。
※この項目の構成や内容、写真提供に関しまして、国分酒造株式会社・焼酎蔵 薩州濱田屋伝兵衛・繊月酒造株式会社・柳田酒造合名会社のご協力をいただきました。
一袋1トンの米が入った袋 (国分酒造株式会社) |
洗米(洗麦) 浸漬 |
まずは麹の元となる原料米(原料麦)をきれいに洗います。 そして、洗った原料米(原料麦)を水に浸して蒸すために最適な状態とします。 |
自動蒸米機、写真右から蒸し上がった米が出てくる (繊月酒造株式会社)
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蒸きょう 冷却 |
意図する程度に水がしみこんだ原料米(原料麦)を蒸し器で蒸します。 そしてそれを麹菌が繁殖しやすい35度程度に冷まします。 蔵によっては左の写真のように蒸し器と製麹を 同時に出来る独自の改良を施している場合もあります。 |
焼酎造りで用いられる種麹 (焼酎蔵 薩州濱田屋伝兵衛)
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種付け 製麹 |
適切な温度となった原料米(原料麦)に麹菌を植え付け、麹となるまで麹菌を丹念に生育させます。麹菌には大きく分けて、白麹・黒麹・黄麹があります。 近年は左の自動製麹機のように蒸きょうから製麹まで全自動で出来る機械も登場しています。 なお、「製麹」は「せいきく」と読みます。 |
甕による一次仕込み (焼酎蔵 薩州濱田屋伝兵衛) |
一次仕込み | できた麹に水と酵母を加えて発酵させます。これが一次仕込みです。約1週間程度で一次仕込みが完了します。泡盛は一次仕込みのみを行い、そのまま蒸留の行程へ行きます。また、一次仕込みの際に主原料も一緒に投入して二次仕込みを省略する仕込み方を「どんぶり仕込み」といいます。 |
手作業による二次仕込み (焼酎蔵 薩州濱田屋伝兵衛)
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二次仕込み | 一次仕込みが完了すると今度は二次仕込みです。一次仕込みは麹をそのまま発酵させましたが、今度は主原料を投入してさらに発酵させることになります。このとき投入した主原料によって焼酎の種類が変わることになります。たとえば一次仕込みで麦麹を発酵させ、二次仕込みでさつまいもを入れた場合はいも焼酎になります。二次仕込みはおおよそ二週間程度で完了します。 |
木樽の蒸留機 (焼酎蔵 薩州濱田屋伝兵衛)
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蒸留 | 二次仕込みが終わるともろみは15度前後の度数になっています。これを下から熱し、蒸発した気体を冷水などで冷やすことで高濃度のアルコールを含む液体が抽出できます。この一連の作業を蒸留といいます。本格焼酎の場合は蒸留機にかけるのは一回だけです。蒸留機は各蔵で様々な形をしており、中には蒸留機を絶対に外部には見せない蔵もあります。これは蒸留機の形で味わいが大きく異なるためでどのような形をさせるか、ということ自体が蔵の考え方でポリシーになるためです。 蒸留後の液体には独特の温泉地のようなにおいがあります。これを蒸留香、あるいはガス香と呼びます。 |
甕貯蔵庫の様子 (焼酎蔵 薩州濱田屋伝兵衛) |
熟成 | 蒸留が終わったあとフーゼル油などを濾過します。その後、タンクや甕で一定期間おいておきます。これを熟成といいます。熟成させることで蒸留の際に発生した蒸留香が取れるほか、アルコール分と水が良く馴染み、まろやかな味わいへと変化します。通常の焼酎であれば、3か月から半年、1年程度寝かせて出荷しますが、長期熟成タイプになると20年以上寝かせるものもあります。蒸留したものをそのまま寝かせるだけでなく、40度弱に加水する場合、出荷時の濃度である25度に加水して熟成させる場合もあります。 |
瓶詰めの様子 (国分酒造株式会社) |
瓶詰め | 熟成が終わり出荷の時期を迎えるとタンクや甕から焼酎を瓶へ移していきます。原酒をそのまま熟成させていた場合はこの段階で加水し、出荷のためのアルコール濃度に調整したものを瓶詰めします。これにラベルを付ければ後は出荷をするだけとなります。 |